「ウミガメのスープ」の作者は誰なのか
「ウミガメのスープ」は、いまや会話型推理ゲームの代表名のように使われている。ただ、この問題を誰が作ったのかは、はっきりしていない。名前や媒体をたどりながら、その来歴を整理する。
誰が作ったのか、はっきりしていない
出題者が問題を出し、参加者がYES/NOで答えられる質問を重ねながら真相に近づいていく。水平思考パズル、ラテラル・シンキング・パズル、シチュエーションパズルなどと呼ばれる形式の中でも、特に知られている問題の一つだ。
調べていくと、ポール・スローン、景山民夫、『世にも奇妙な物語』、2ちゃんねるなど、いくつかの名前や媒体が出てくる。しかし、それらは「作者」として一直線につながるものではなく、紹介・翻案・普及の経路として見る方が自然だ。
この記事では、その中でも特に重要だと思われる、2003年の人力検索はてなに残っている「ポール・スローン本人へ問い合わせたという報告」を中心に整理する。
「ウミガメのスープ」は本来、一つの問題名だった
まず前提として、「ウミガメのスープ」は本来、ジャンル名ではなく一つの問題名である。
エクスナレッジの『ポール・スローンのウミガメのスープ』紹介ページでは、この問題を、LTP=ラテラル・シンキング・パズルという欧米発祥のパーティゲームの代表例として説明している。
つまり「ウミガメのスープ」は、水平思考パズルという形式の中にある有名な一問だった。それが日本では、次第に形式そのものを指す言葉のようにも使われるようになった。
ここは分けて考えた方がいい。
「水平思考パズル」という形式の由来と、「ウミガメのスープ」という一問の由来は同じではない。また、その一問が日本でどのように広まったかという話も、さらに別の問題になる。
ポール・スローンが作者なのか
「ウミガメのスープ」の発祥を調べると、ポール・スローンの名前がよく出てくる。
日本でも『ポール・スローンのウミガメのスープ』という本が出ている。エクスナレッジの書誌情報では、著者はポール・スローンとデス・マクヘール、翻訳はクリストファー・ルイス、発行年月日は2004年10月20日となっている。
このタイトルだけを見ると、ポール・スローンが「ウミガメのスープ」を作った人だと受け取ってしまいそうになる。
ただし、これは慎重に扱う必要がある。
ポール・スローンは、水平思考パズルを広めた人物として重要である。紀伊國屋書店の商品情報でも、LTPを「出題者の謎を解答者が推理して解くゲーム」として紹介し、スローンについては、パズルやクイズの収集・創作を好んできた人物として説明している。
ここで重要なのは、スローンが「水平思考パズルの紹介者・収集者・作者」として知られていることと、「ウミガメのスープそのものの作者である」ことは別だという点だ。
2003年の人力検索はてなに残る記録
この点を考えるうえで、2003年の人力検索はてなに残っている記録が参考になる。
2003年12月15日、「ウミガメのスープ」というゲームの発祥を探す質問が投稿されている。質問者は、このゲームを誰が考案したのか、どういう経緯で一般に知られるようになったのかを調べていた。
質問文では、景山民夫、斎藤孝、『世にも奇妙な物語』は確認済みとされている。また、Paul Sloaneの洋書に “The Deadly Dish〜アホウドリのスープ” という類似のクイズが収録されているという情報にも触れている。
この質問への回答の中に、ポール・スローン本人にメールで問い合わせたという報告がある。
回答者は、自分が送った内容について、「ウミガメのスープ」と “The Deadly Dish” の共通点と相違点、そしてこの二つの物語と、そこからできたゲームの考案者をSloane氏が知っているかという問いだったと説明している。
その返答として報告されている内容は、次のようなものだ。
- 「ウミガメのスープ」と “The Deadly Dish” はおそらく同じものだろう。
- このストーリーとパズル自体は、都市伝説として古くから知られていたもので、ゲームの考案者についてもSloane氏には分からない。
- 「ハーバードの学生が考えた」という話についても、ソースのない伝説のようだ。
報告の扱いには注意が必要
この記録は重要だが、扱いには注意が必要である。
公開されているのは、メール原文そのものではない。あくまで「ポール・スローン本人に問い合わせたという回答者の報告」である。そのため、これをもって「作者不詳であることが完全に証明された」とまでは言えない。
一方で、「ポール・スローンが作者である」とする根拠としては、かなり弱くなる。少なくとも、この報告に従うなら、スローン自身は「ウミガメのスープ/The Deadly Dish」を自作とは説明しておらず、古くからある都市伝説的なパズルとして認識していたことになる。
同じ質問者は、数日後に自身のブログでこの調査を整理している。そこでは、LTPの大御所であるPaul Sloaneをして「都市伝説」ということならば、どうやら「作成者不詳」と考えてよさそうだ、とまとめている。
この整理は、現時点でも無理のない結論だと思う。
少なくとも「ポール・スローンがウミガメのスープを作った」と見るより、「古くから語られていた都市伝説的な水平思考パズルが、スローンらの本や日本での紹介を通じて広まった」と見る方が、確認できる情報に沿っている。
日本では、景山民夫と『世にも奇妙な物語』が大きい
日本での広まりを考えると、景山民夫の「海亀のスープ」は外せない。
フジテレビ公式の『世にも奇妙な物語』作品一覧では、1991年12月5日放送回に「海亀のスープ」が掲載されている。出演はいかりや長介。原案は景山民夫「海亀のスープ」、『どんな人生にも雨の日はある』所収とされている。
この時点での「海亀のスープ」は、現在のような参加型ゲームというより、不気味な短編ミステリーとして受け取られた可能性が高い。
『世にも奇妙な物語』の公式情報では、あるレストランで海亀のスープを口にした男が「これは海亀のスープじゃない」と言って去り、翌日に自殺する。その謎を雑誌記者が追う、という内容になっている。
つまり日本では、「ウミガメのスープ」は最初からゲームの形式だけで広まったわけではない。物語として記憶された面も大きかったと考えられる。
2ちゃんねるで参加型ゲームとして定着する
その後、日本で「ウミガメのスープ」が会話型推理ゲームとして定着するうえで、2ちゃんねるの影響は大きい。
2004年には『推理クイズ道場 ウミガメのスープ』が刊行されている。紀伊國屋書店の書誌では、海亀素夫編著、2ちゃんねる監修、バジリコ刊、2004年8月発売と確認できる。
Amazonの商品説明では、この本について「2ちゃんねるのオカルト掲示板で始まった、全員参加型推理ゲームスレッド」と説明されている。
この段階で、「ウミガメのスープ」は読む問題や見る物語から、複数人で質問しながら進める遊びとして広く認識されるようになっていったと考えられる。
一人が問題を出し、他の参加者が質問する。出題者はYES/NOを中心に答え、少しずつ条件が絞られていく。この形式は、掲示板のやり取りと相性がよかった。
日本で「ウミガメのスープ」という問題名がジャンル名のように使われるようになった背景には、このネット掲示板での遊ばれ方がある。
「作者不詳」と見るのが妥当
以上を踏まえると、「ウミガメのスープ」の作者を特定の人物に帰すのは難しい。
ポール・スローンは、水平思考パズルを広めた重要人物である。しかし、2003年の人力検索はてなに残る本人照会報告では、スローン自身がこの話を古くからある都市伝説的なパズルとして扱い、考案者は分からないと答えたとされている。
日本では、景山民夫の紹介、『世にも奇妙な物語』でのドラマ化、2ちゃんねるでの参加型ゲーム化を経て、現在の「ウミガメのスープ」文化につながっていった。
そのため現時点では、「ウミガメのスープ」は作者不詳の水平思考パズルであり、日本では複数の媒体とネット文化を通じて、会話型推理ゲームの代表名として定着した、と見るのが最も無理がない。
参考・出典
- 人力検索はてな「『ウミガメのスープ』というゲームの発祥を探しています」 — 2003年12月15日の質問。Paul Sloane本人にメールで問い合わせたという回答があり、「都市伝説として古くから知られていた」「考案者は分からない」とする報告が掲載されている。
- ただいま村「ウミガメのスープの源流、今までにわかったこと」 — 人力検索はてなの調査を受け、「作成者不詳」と考えてよさそうだと整理している。
- エクスナレッジ『ポール・スローンのウミガメのスープ』 — LTPを欧米発祥のパーティゲームとして紹介。著者・発行年月日・ISBNなどの書誌情報も確認できる。
- 紀伊國屋書店『ポール・スローンのウミガメのスープ』 — 日本語版の書誌情報、LTPの説明、著者紹介。
- フジテレビ公式『世にも奇妙な物語』あらすじ一覧 — 1991年12月5日放送回に「海亀のスープ」が掲載されている。
- 紀伊國屋書店『推理クイズ道場 ウミガメのスープ』 — 海亀素夫編著、2ちゃんねる監修、バジリコ刊。
- Amazon『推理クイズ道場 ウミガメのスープ』 — 「2ちゃんねるのオカルト掲示板で始まった、全員参加型推理ゲームスレッド」と説明。